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「オウム関連・家宅捜索と国賠提訴」
裁判提訴の報告  97.8.8

●頻発する家宅捜索

 一連のオウム事件に対する捜査が終結したはずの96年3月以降も、オウム真理教団の内情探索を目的とする家宅捜索が、おびただしい頻度で行なわれていたことはあまり知られていない。破産手続等によって富士山麓の教団施設からの退去を余儀なくされた出家信者らは、全国百数十カ所以上にわたって分散し、アルバイトをしながら新しい生活を始めているが、そんな信者らの住居に対して警察は容赦なく家宅捜索を繰り返した。

 わかっているだけでも、96年7月から今年7月までの間に、のべ185カ所の信者・元信者の住居等に対して捜索が行なわれた。そして、のべ211台のパソコン、のべ5732枚のフロッピーディスク、のべ147台のハードディスクを中心に、多数の物品が押収された。実際にはもっと多くの捜索差押がなされていると考えていい。


●オウム真理教信者・元信者に対する強制捜査のデータ



*オウム真理教関係者に対する強制捜査で今回把握しきれていない例も多数存在するものと思われる。

 96年10月に上九一色村より信者が退去したことから、11月にはさらに増えたものと考えられる。

1996年1997年
7月… 4件1月… 5件
8月… 1件2月… 9件
9月… 26件5月… 2件
10月… 30件 7月… 2件
11月… 96件
12月… 10件

1996年7月から1997年7月まで総件数 … 185件


●捜索の不当な口実



 警察は、捜索を正当化して強行するために、ささいな口実を次々と見つけ出してきては信者らに押しつけた。中でも最も多く用いられた罪名は、電磁的公正証書原本不実記録・同供用。つまり、住んでいないところに住民票を置いたという容疑である。通常ならば大げさな捜査など行なうような事案ではない。しかし相手が教団信者だけに、警察はこの罪名を大いに濫用し続けた。

 よく似た口実として、免状等不実記載、つまり運転免許証に事実と違う住所を記載した、というものも多々見られる。

 その他に目立った例としては、軽犯罪法違反や銃刀法違反がある。これは信者が単に業務用のカッターナイフ等を携帯していたというだけのことだが、警察は、その信者を現行犯逮捕した上、信者が出入りしたりしていた施設を後日になって家宅捜索するのである。

 道路運送車両法違反というのもある。これは自動車を譲渡したにもかかわらず、法定期間内に車検証の記載変更をしなかったという“犯罪”だ。

 また、信者がアルバイト先の会社の制服やヘルメットを返却し忘れていたことをもって横領とし、捜索が行なわれた例も2件ある。

 最近では、信者が家賃を1万円分未納にしていたことをとらえて、大家に被害届を書かせた上、横領容疑に基づき捜索を行なったという例がある。

 このように、オウムに対する家宅捜索には「あらゆる法令が駆使」されたのである。



  ●無関係な場所まで広範囲に捜索



 そして捜索の手は、被疑事実とは全く無関係な場所にも広く及んでいる。

 被疑者である信者の住居はもちろんのこと、単にその被疑者が短時間立ち寄ったにすぎない信者宅、ただ近くにあるというだけの信者宅、さらには一度も立ち寄ったことのない信者宅に対しても、被疑事実とは全く関係なく捜索が行なわれている。信者の中には、名前も顔も知らない他の信者を被疑者とする令状に基づいて突然の捜索を受けて戸惑ったという人が多数いる。

 愛知県では、信者である兄弟同士が個人的な理由で喧嘩し、兄が弟を殴ったことをもって、兄を傷害罪の被疑者とし、何の関係もない教団名古屋支部に対して捜索が行なわれるということがあった。

 また埼玉県では、所有者の名義変更がなされていなかった車両が一時的に立ち寄っただけにすぎない信者の住居に対して、その車両についての道路運送車両法違反で捜索が行なわれている。

 捜索を受ける大部分の信者らにしてみれば、自分たちには何も思い当たる節がない。ただ一つ思い当たることと言えば、自分がオウムの信者であるということ、ただそれだけである。

 しかし、いつもながら、このような滅茶苦茶な捜索差押を許可する令状を濫発する裁判所には良識というものがあるのだろうか――。



●無関係な物も大量押収



 そして警察は、いったん捜索を始めると、被疑事実とは関係のないものまで何でも押収していく。特に狙われたのは、パソコンやフロッピー類だ。警察はこれらに記録されている情報を入手したかったのであろう。そのパソコンが誰の所有物でどういうデータが入力されているのか、そして捜査の口実となっている被疑事実と関係があるのかどうかということすらその場で全く確認せずに、パソコンを見つけるやいなや手当たり次第に押収していくのである。

 パソコン類が目当てで捜索を繰り返していることは、令状の内容からも明らかであった。というのも、例えば信者が住民票を住んでいない所に置いていた場合でも、カッターナイフ等を持っていた場合でも、アルバイト先のヘルメットを返 却し忘れていた場合でも、つまりどんな「犯罪」を犯した場合でも、令状にはすべて「本件犯行の動機を入力したパソコン類」「本件犯行の組織性を裏付ける記録が入力されたパソコン類」が差し押さえるべき物として明記されていたのである。

 現場の捜査官によれば、押収したパソコンは、警察の分析センターのようなところへ集められて徹底的に解析されるシステムになっており、末端の捜査官に至るまで、パソコンを集中的に押収するよう徹底されていたようだ。パソコン類を狙っての恣意的な捜索が行なわれていたのは間違いない。

 なおパソコン類ばかりでなく、被疑事実と無関係な名簿類や教団発行のマニュアル類も軒並み押収されている。その際、捜査官は、「オウムが発行した物は何でも持っていかなくちゃならない」「こういうものを持っていって分析しなければならない」「任意提出しないと令状とって何回でも来るぞ」などと公言している。



●捜索現場での捜査官の違法



 このような不当な捜査に対して、現場に居合わせた信者らは抗議の声を上げたが、そんな信者らの多くは、興奮した機動隊員等によって暴行を受けたり、傷害を負わされたりしている。ある警官は、無抵抗の信者を地面に突き飛ばして出血を伴うケガをさせた際、周囲の信者から抗議を受けたところ、「オウムなんか殺したっていいんだ!」と開き直って暴言を吐いている。

 また、いきなり必要もないのに門扉を破壊して侵入してくる、令状をろくに見せずに捜索を始める、立会人の数を不当に少数に制限するなど、手続的にもやりたい放題の違法行為が横行した。



●被害を受けた信者ら、国賠提訴へ



 捜索を受けた信者の中には、抗議しただけで暴行を受け怪我をさせられた人、被疑事実と全く関係がないのに自分の商売道具を押収されて収入に悪影響が生じた人、ようやく警察から還付されてきた自分のパソコンの中にコンピュータウイルスが大量に植え込まれていて使い物にならなくなっていたという人など、大きな被害を受けた人が多い。また、目に見える被害はなくとも、捜索を受けること自体が、社会復帰をして社会に溶け込もうと努めている信者たちにとっては、地域社会から白眼視され孤立させられるきっかけとなる重大な脅威なのだ。

 このほど、11人の原告による8件の第一回提訴が東京地裁に対して行われた。

 オウム裁判対策協議会では、このような理不尽な被害を受けた信者有志による国家賠償請求訴訟の提起を支援している。

以上

国賠各事件の詳細については、国賠ネットワークで紹介されています。





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