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サリン合成工程


サリン合成工程
(検察側冒陳で示された方法を、化学専門文献によって調べてみた)

工程を調べた目的: 事件現場から検出された物質が、ここにあげたサリンの合成法でできる物質と整合性があるか、今後検討する予定。
お願い: ?としているところは、データ不明。ご存じの方、メールフォームで情報をお寄せください。

 
生成物
検察側冒頭陳述要約
反応式
収率
参考文献
備考
第一工程

亜リン酸トリメチル

 

(CH3O)3

試作段階 三塩化リン、メタノールを原料とし、溶媒としてn−ヘキサンを、反応促進剤としてN,Nジエチルアニリンを用いて、亜リン酸トリメチルを生成する。その際、反応の過程で発生する塩化水素は、ジエチルアニリン塩酸塩となって沈殿する。

PCl3+3CH3OH+3C65N(C252
(CH3O)3P+3C65N(C252・HCl

   
松本サリン事件 この工程は省いている。
地下鉄サリン事件 この工程は省いている。
第二工程

メチルホスホン酸ジメチル

 

CH3P(O)(CH3O)2

試作段階 亜リン酸トリメチルに触媒としてヨウ素を加え、転位反応によりメチルホスホン酸ジメチルを生成する。その際、瀘過によりヨウ素を除去し、ジメチルを精製する。 P(CH3O)3+I2
CH3P(O)(CH3O)2+I2
98.7% Yadav「ホモ・アルキル・ホスホネートへの実用的な研究方法 触媒作用のミカエリス・アルブーゾフ反応」(英語) SYNTHETIC COMMUNICATIONS「合成通信」20巻2号239-246頁1990年  
松本サリン事件 市販の亜リン酸トリメチルを用いてサリンの生成作業を第二工程から開始することとした。三つ口フラスコにヨウ素を入れて、これに亜リン酸トリメチルを加えて反応させメチルホスホン酸ジメチルを生成する。
地下鉄サリン事件 この工程は省いている。
第三工程

メチルホスホン酸ジクロライド 

略称
ジクロ

 

CH3P(O)Cl2

試作段階 ジメチルと粉末状の五塩化リンを加熱した状態で反応させ、メチルホスホン酸ジクロライドを生成する。その際、副生成物としてオキシ塩化リン等が生じるため、この混合物を分留してジクロを精製する。なお、ジクロは常温下で固体である。 CH3P(O)(OCH32+2PCl5
CH3P(O)Cl2+2POCl3+2CH3Cl
73% Quast,Heuschmann,Abdel-Rahman「メチルホスホン酸のジクロリドの製造」(ドイツ語)Symthesis「合成」1974年 140頁 冒陳では塩化メチル(メチルクロリド)CH3Clの記載がない。冒陳には、分留してメチルホスホン酸ジクロライドを取り出した、とある。
松本サリン事件 三ツ口フラスコに五塩化リンを入れ、これにメチルホスホン酸ジメチルを滴下して反応させ、これによってジクロと副生成物のオキシ塩化リンが生成されたので、分留してジクロを取り出す。
地下鉄サリン事件 この工程は省いている。
第四工程

メチルホスホン酸ジフロライド

略称
ジフロ

 

CH3P(O)F2

試作段階 ジクロに原料であるフッ化ナトリウムを反応させ、メチルホスホン酸ジフロライドを生成する。その際、副生成物として塩化ナトリウムが生じる。不純物を除去するため、蒸留により、ジフロを精製する。 CH3P(O)Cl2+2NaF →
CH3P(O)F2+2NaCl
88.2% Monard,Quinchon「メチルフルオロホスホネート・イソプピルの生成と物理特性 ・純粋標準生成物の二つの標本における生成と物理特性」(フランス語) Bulletin de la Societe Chemique de France「フランス化学社会報告書」1961年1084-1086頁 冒陳では、蒸留してメチルホスホン酸ジフロライドを取り出した、とある
松本サリン事件 三ツ口フラスコにフッ化ナトリウムを入れて、これに第三工程で生成したジクロの一部を加えて反応させ、これによってジフロと副生成物の塩化ナトリウムが生成されたので、蒸留してジフロを取り出す。
地下鉄サリン事件 この工程は省いている。
第五工程

サリン

 

CH3P(O)FOCH(CH32

試作段階 ジクロとジフロの混合物に原料であるイソプロピルアルコールを反応させ、サリンを生成する。副生成物として発生した塩化水素は、水酸化ナトリウムと反応させて塩化ナトリウムとして除去する。サリン約20gの試作に成功した。

主反応式
CH3P(O)Cl2+CH3P(O)F2
2(CH32CHOH →
2CH3P(O)FOCH(CH32
2HCl

副反応式
CH3P(O)Cl2+CH3P(O)F2
4(CH32CHOH →
2CH3P(O)[OCH(CH322
2HCl+2HF

73.9%

Monard,Quinchon「メチルフルオロホスホネート・イソプピルの生成と物理特性 純粋標準生成物の二つの標本における生成と物理特性」(フランス語) Bulletin de la Societe Chemique de Frrance「フランス化学社会報告書」1961年1084-1086頁

Anthony T. Tu「サリンとどうやって特定できるのか」(日本語)化学50巻8号1995年

試作冒陳では、発生した塩化水素HClは水酸化ナトリウムの反応させて塩化ナトリウムとして除去する、とある。松本事件冒陳では、塩化水素について全然触れていない。松本事件では塩化水素はどう処理されたのか、不明である。 松本事件冒陳では、フッ化水素HFについて触れているが、どう処理したか書いていない。 無色であるはずのサリンが青色を呈した件について、「フッ化水素が反応容器の一部を溶かしたためコバルトブルーに着色されたサリンが出来たという」(読売新聞1995年8月4日朝刊27面)
松本サリン事件 ジクロ及びジフロを反応釜に入れ、定量ポンプを用いてイソプロピルアルコールを流し込んで反応させ、サリンの液体約30kgを生成した。イソプロピルアルコールを過剰に投入するなどしたため、サリンのほかにメチルホスホン酸ジイソプロピル及びフッ化水素が発生し、また、無色であるはずのサリンが青色を呈した。土谷正美が、この液体の成分を分析した結果、サリンが生成されていたが、全体量の約70%であり、残り約30%はメチルホスホン酸ジイソプロピルであった。
地下鉄サリン事件 サリンの中間生成物であるメチルホスホン酸ジフロライド約1.4kgが処分されていなかった。三ツ口フラスコ内にヘキサン、ジエチルアニリン及びジフロを入れ、反応させる温度を調節するとともに、イソプロピルアルコールをそれに滴下するなどして、約30%のサリンを含有する6ないし7リットルのサリンの混合液を生成した。同液体は、ヘキサン、ジエチルアニリンを含み、透明な部分と薄茶色の部分の二層に分かれていたが、いずれの層にも生成されたサリンが含まれていることが確認された。

主反応式
CH3P(O)F2
(CH32CHOH →
CH3P(O)FOCH(CH32+HF

副反応式
CH3P(O)F2
2(CH32CHOH →
CH3P(O)[OCH(CH322+2HF

Reesor,Perry,Sherlock「放射性物質を探すトレーサーの要素としての放射性同位元素リン32を含んだ高度な放射性イソプロピル・メチルホスホノフルオリデート(サリン)の合成」Canadian Journal of Chemistry「カナダ化学雑誌」38巻1416-1427頁1960年

 

Anthony T. Tu「サリンとどうやって特定できるのか」(日本語)化学50巻8号1995年

ジクロは処分してしまい、使えなかったので、松本事件のサリン合成法と違えたのであろう。




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