2003年6月17日、土谷正実公判を傍聴した。
当初は土谷が拒否していた被告人質問が行われていた。
すでに松本サリン事件、地下鉄サリン事件関連は終わり。
この日はVX関連の被告人質問だった。
被告人質問というと、弁護人と被告人との一問一答が普通だが、土谷が弁護人に不信感を持っているせいで、土谷が一人で話す形式だった。初めて見たケースである。
VX関連はあまり調べていなかったが、この日の内容は比較的わかりやすかったので紹介したい。
VX事件の経緯は次のとおりである。
1. 1994年12月2日、オウム真理教の脱会信徒をかくまっていた東京都中野区の会社員・水野昇さんを、VXで襲撃して重傷を負わせた。
2. 1994年12月12日、大阪市の会社員・浜口忠仁さんにVXをかけて殺害した。
3. 1995年1月4日、「オウム真理教被害者の会」会長の永岡弘行さんをVXで襲撃して、重傷を負わせた。
疑問が出ていたのが浜口さんと永岡さんの事件である。
●永岡さん事件
永岡さんの血液から有機リン系農薬の「スミチオン」が検出されたという。
三種類の検出法で調べた結果、「スミチオン」が検出された。(注1)
ここで何が問題かというと、そもそも「スミチオン」がなぜ、どのように永岡さんの血液に入ったか解明されていないことである。
「『スミチオン』は毒性を持っている。永岡さん重傷の原因はVXではなく『スミチオン』ではないのか」
と土谷は主張したいのであろう。
情報が少なくて、何とも判断のしようはないが、「スミチオン」検出は確かなようだ。
もう一つの土谷の疑問。
警察の分析によれば、永岡さんの体内からオウムの言うVX合成のA工程でできる物質しか検出されなかったことである。
もう一つのB工程からの物質は検出されなかった。この点を土谷は不思議がっていた。オウムではこのA工程、B工程でできた物質を合成して、VXをつくっていたからである。
●浜口さん事件
浜口さんは倒れ、救急車に運ばれ入院した。土谷は、当然浜口さんの血液検査をしているはずなので、その分析結果を情報開示してほしいと要求した(注2)。ところがこの要求は却下されてしまった。
また土谷は、浜口さんが倒れてから救急車が来るのが余りに速かった、この点についても疑問を呈した。
このことは、土谷も、以前証言にたった中川智正も疑問をいだいている。
救急車が来たのは、倒れるのをあたかも待っていたかのようなタイミングだったと言う。
注1:三種類の検査法とは、
1. 薄層クロマトグラフィー、
2. ガスクロマトグラフィ質量分析法(リテンションタイムとマススペクトル)、
3. 液体クロマトグラフィーのことである。
「スミチオン」は、住友化学工業が開発した有機リン酸系殺虫剤の商品名という。横文字の綴りは、Sumithionとなっている。Sumiが住友と表わしている。
なお、鑑定人は「スミチオン」検出と断定したが、土谷自身は
「『スミチオン』と同じ分子構成を持った物質が検出された」
と厳密にコメントしている。
注2:大阪府警科捜研が2000年にアメリカ化学会機関誌に発表した論文によると、浜口さんの体内からVXの代謝物の二種類を検出した、としている。二種類というのは、EMPAとDAEMSという物質である。
ところで、興味深いのは地下鉄サリン事件で東京医科大に入院した患者の尿から、EMPAが検出されていることである。東京医科大の論文を見ると、サリンでEMPAが検出されることはなく、エチルサリンが使われたのでないかとしている。
東京医科大ではエチルサリンの可能性を疑ったようだが、VXの可能性を疑ってもいいといえる。
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