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「書籍・論文のサリン資料」の概要紹介&三浦評価


資料1
John Parker
「Tabun,it's Tabun」タブン(多分)タブンだ
The Japan Times Weekly April 1,1995

重要度
3〜1の3段階で評価/ 数が多いほど重要
重要度は三浦の独断

資料2
Yoichi Clark Shimats
 「Zettai Tabun」絶対タブン
The Japan Times Weekly May 27,1995

重要度
3〜1の3段階で評価/ 数が多いほど重要
重要度は三浦の独断

概要



資料1「Tabun,it's Tabun」タブン(多分)タブンだ

シカゴにある
緊急事態反応研究会(The Emergency Response & Research Institute。ERRI)
は、東京サリン事件の被害者の症状がサリンからのものではない、と述べている。
むしろ、暗い・見にくい、視野狭窄、筋肉けいれんなどの症状が見られた。これらの症状は、タブンとよばれる神経ガスの特徴と一致している。

伝えられるところでは、NHKは、この問題を扱った海外制作ビデオの独占放映権を獲得しながら、日本で放映していない。
NHKのスポークスマンは、東京の毒ガス攻撃についての海外ニュースを隠しているわけではない、と否定して次のように述べている。
「海外ニュースソースから購入した素材をすべて使うわけではありません。あとで放映するために一部は保存しておく場合があるからです」

NHKが独占権を購入したあと、あるメジャーのニュース機関(a major news organization)
によって、いくつものメモがつくられた。そのうちの一つを引用する。

日本では使用禁止
日付・場所:日本、3月25日
東京地下鉄攻撃で使われたガスがサリンかどうか、何人かの科学者は疑問をもっています。
サリンにさらされたばあい、死ぬのは10人どころではない、といわれている。
何人かの被害者は、鼻や口から血を流していた。これは、サリンの症状ではありません。

ジョージ・ワシントン・メディカルセンターのクレイグ・ディートリー教授は、
「人々は、果物のような匂いがした、と言っています。ふつう、サリンは無臭です」

米陸軍の元軍事ガス開発責任者だったサウル・ホーンマッツの話
「出ている症状とサリンの総合的症状のリストを、日本に提出してもらって、これこれの症状がおきなかったのはなぜか、だれかが尋ねるべきだ」



資料2「Zettai Tabun」絶対タブン

TBSニュースは次のようにレポートした。
「被害者からとられた血液サンプルのコリンエステラーゼ値が、タブンとソマンの混合物に相当した」

東京の病院で採取された血液サンプルの酵素分析の結果、警察の主張に対して大きな打撃になったのが、毒性の持続性である。
サリンは非常に不安定な化合物で、神経ガスの中でもっとも持続性が低い。
純粋のサリンは、4時間以内に毒性のない物質に分解してしまう。
純粋でないサリン(警察は、30%の不純物だという主張を漏らしている)は、はるかにもっと短い時間で致死性を失う。
しかし、通勤客の衣服に付着したわずかな神経ガスは、8時間またはそれ以上毒性が持続していた。東京にある聖路加国際病院の医師や看護婦10人が、瞳孔が縮小するなどの神経ガスの毒性症状に見舞われた。
被害にあい、軽い症状にかかった日産社員は、たいしたことはなかったので、聖路加国際病院の待合室に検査を受けるまで座っていた。午後遅く家に帰ったあと、奥さんがスーツにアイロンをかけると、症状が出たのである。

主要なネットワークは、15の海外ニュースを箇条書きにした記録を手に入れていたが、ある権力(some authority)によって、日本での放映を抑えられた。

3月20日朝、日本のレポーターから来た化学剤の確認第一報は、致死性ガスはマスタードガスだった。この報告はまもなく撤回された。
東京消防庁は、原因は薫上薫蒸剤アセトニトリルと発表した。次に、警察が、メチルシアニドの容器が二つあったことを報告した。メチルシアニドは、アセトニトリルの別名である。
事件から11日たった3月31日に、読売新聞、朝日新聞を引用すると、警察のリークでは、アセトニトリルの存在を否定した。
同じ日、警察は、毒ガスの揮発性を増すための溶剤としてジエチルアニリンが使われた、と主張した。読売新聞は、被害にあった16駅のうち5つの駅だけジエチルアニリンがあった、という記事を載せた。

事件直後テレビのニュースで見た、被害者の出血はどうなったのか。
サリンやタブンは、出血をおこさない。ホスゲンは肺の血管に損傷を与える。
東京の医師たちは、地面に倒れたとき鼻をけがして出血したのだろう、と推測している。
もちろん、このことばは、口からのおびただしい出血の理由を説明するものではない。

そして煙は?
被害者によって報告された白い煙は、ホスゲンの煙か、液体窒素で凍らせている神経ガスが気化するのを妨げるためのドライアイスが単に気化しただけかもしれない。

もっともショッキングな光景は、警察の科学捜査チームが、地下鉄の駅から神経ガス容器を、半袖シャツ、防毒マスクもつけずに、素手で取り除いたことだった。



注目点 (三浦執筆)


記事はもちろん英語で書かれている。
いまはなくなってしまった河上イチローのホームページに翻訳が載っていた。これを参考にしながら、拙訳を試みた。

1、気になったのは、タブンとサリンの症状がどのような違いがあるのだろう、ということである。記事にあるthe dimming of vision(視界が暗くなる)、pin-point pupils(縮瞳)、muscle -twitching(筋肉けいれん)の症状は、サリンでもあると思うのだが・・?

この記事での最大の注目点をあげてみる。
(1)NHKは、海外制作のビデオを入手したが、放映していない。
(2) Suppressed for use in Japan(日本での使用禁止)という表現が、海外制作のビデオについている。
(3)鼻や口から血を流している犠牲者がいた。
(4)被害者たちは、果物のような匂いをかいだ。
(5)米陸軍の幹部が、被害者の症状とサリンの症状と比較してみて、何が一致して、何が一致しないのか。一致しないものは、なぜおこらなかったのか。

(2) について、こういうことがあるとは、薄々聞いたことがあるような気がするが、ほんとうにあるのだなあと驚いた。
(3)について、こういう症状をひきおこす物質はなんだろうか。マスタードガスはどうなのか。
(4)について、果物の匂いのようなというのが、甘い匂いだとしたら、ホスゲン(塩化カルボニル)が考えられるが、どうなのか。
(5)について、米陸軍の幹部が、被害者の症状とサリンの症状と比較してみて、何が一致して、何が一致しないのか。一致しないものは、なぜおこらなかったのか。こういう比較は、ぜひ実行してもらいたいものである。


2、被害者の血液のコリンエステラーゼ値が、タブンとソマンの混合物の濃度と一致したということだ。そうだとすると、サリンだけしかなかったとはいえなくなる。

ほんとうだとすると重要な情報だ。

また警察発表だと、事件に使用されたサリンは不純物が多量にまじったサリンだとされている。しかし、これだと毒性の持続性に矛盾がある、と記事で指摘している。
不純物が多量にまじったサリンで、8時間も毒性が維持されていたというのは確かにおかしい。日産の社員の件は、朝8時に被害にあって、午後遅くというから、4時すぎとみて、確かに8時間はたっている。とすると、この人が吸ったのは、オウムがまいたものとは違うものを、浴びた可能性がある。

4月1日号にもあげていた、海外制作ビデオを放映しなかった件で、メモをつくったのはsome authorityとしているが、具体的にどこなのか。
マスタードガスを確認した件。
つけ加えれば、日本経済新聞、産経新聞、共同通信が、日比谷線小伝馬町駅構内で、自衛隊化学部隊がびらん性ガスを検出した、という記事を載せている。マスタードガスはびらん性ガスに含まれる。

次が前から問題になっているアセトニトリルである。
東京消防庁が発表したのは知っていたが、警察もシアン化メチルの名で報告していたとは、初耳だった。どういう形で伝えたのだろうか。
やっぱりアセトニトリルが検出されたのではなかろうか。
でも、なぜ、警察はアセトニトリルのことを、あんなに必死に否定するのだろうか。
オウムからもこの物質も押収されているのだから、そんなにむきになって否定しなくてもいいのではないかと思うのだが。ほかになにかまずいことでもあるだろうか。

かわりにジエチルアニリンの方は、けっこう大々的に宣伝しているような気がする。

ホスゲンは、肺の血管を傷つけるので、鼻や口から血が出てもおかしくはない。
ホスゲンがあったのだろうか。
匂いの点からいえば、あっても不思議ではない物質である。

煙の件。
記事では、ホスゲンか、ドライアイスではないかという。

記事にはでてこないが、その他の見解として、当初、二種類の薬品を容器に入れ、踏みつけるなど衝撃を与えて、容器を割り、数分後にサリンを発生させる、というバイナリー方式を採用したのではないか、と言われていた。薬品が混合するときの反応、副生成物の発生が、煙として出たのではないかと、指摘されていた。

どちらにせよ、煙のことはうやむやになり現在に至っている。


タイトルが「絶対タブン」となっているが、記事の内容は、必ずしもタブンだけあった、とはいっていない。むしろサリンだけとする、警察発表に異議を唱えるの内容になっている。

しばらくぶりに、地下鉄サリン事件なるものを検証していくと、わからないことだらけだと、あらためて感じる。
事件現場にあったのは、可能性としてサリン、タブン、ソマン、ホスゲン、マスタードガス(びらん性ガス)、アセトニトリル、ジエチルアニリン、メチルホスホン酸ジイソプロピルなどがあげられる。
このうち警察が認めているのはサリン、ジエチルアニリン、メチルホスホン酸ジイソプロピルぐらいのものである。




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