資料1 角田紀子(科学警察研究所法科学第三部)
「サリンの分析法」
中毒研究10巻p41−48(1997年)
資料2 角田紀子(科学警察研究所法科学第三部)、長野(科学警察研究所)ほか
「ディスカッション 事件後のフォローに国家的な支援体制を」
中毒研究10巻p62−74(1997年)
資料3 角田紀子(科学警察研究所法科学第三部)、瀬戸康雄(科学警察研究所化学第四研究室)
「最近の神経剤分析法」
科学警察研究所報告法科学編50巻2号(1997年8月号)
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重要度
3〜1の3段階で評価/ 数が多いほど重要 重要度は三浦の独断
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3
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概要
資料1「サリンの分析法」
科警研は、松本サリン事件、東京地下鉄サリン事件ならびにオウム関連事案に関して、さまざまな試料から、サリンの鑑定検査を行なった。
皆様はじっさいにわたしどもが行なった鑑定の結果を示すことを、非常に期待されていると思いますが、まだ裁判がはじまったばかりでして、具体的な結果などについては公開ができないのを、お許しいただきたいと思います。
中毒原因物質の化学的分析にはいくつかの方法があるが、今回はGC-MC(ガスクロマトグラフ質量分析法)について報告いたします。
加水分解物、反応中間体、前駆体、使用されている溶剤が、分析の対象として考えられる。
神経ガスは、最終産物のメチルホスホン酸の検出も有力な手段です。
だが、前段階のモノエステル類を検出することによって、使用された神経ガスがサリン、ソマンであるか、VXであるかといったことの判定が可能になります。
試料としては、血液、尿、鼻汁、唾液、臓器や、付着した頭髪、着衣、体表面を拭きとったものが考えられます。
サリン発生現場の大気に触れた体表面や着衣は、乾いたティッシュペーパー、脱脂綿やガーゼのようなもので拭き取り、プラスチック袋やガラス容器に密封して、検査するのが非常によい。
サリンなどの加水分解物は、直接GC-MS分析にかけることができないので、何らかの誘導体化をする必要がある(ある化合物の分子内の一部分を変化させることによって生成する化合物を、元の化合物の誘導体という)。
サリンのGC-MS分析表を載せている。
これによると、
1、サリンは401秒に溶出された。
2、EIマススペクトルでは、ピークの順に、99、125、43、81が得られた。
3、CIマススペクトルでは、強い順に141、99のピークが得られた。
サリンの加水分解物メチルホスホン酸イソプロピル(IPMPA)の
tert-ブチルジメチルシリル(TBDMS)誘導体と、
同じく加水分解物メチルホスホン酸(MPA)tert-ブチルジメチルシリル
(TBDMS)誘導体のGC-MS結果を図に示している。
さらにサリンおよび合成中間体、副生成物、加水分解物などとして検出されることが予測されるような化合物についても、GS-MSの測定を行ない、表にまとめている。
サリン事件における中毒原因物質の同定は、GC-MS分析で得られた質量スペクトルをデータベースから検索し、サリンにヒットしたことが確認、同定の端緒になりました。
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資料2「ディスカッション 事件後のフォローに国家的な支援体制を」
(角田発言)東京地下鉄サリン事件のばあい、サリンをどうして同定したかというと、これは非常にわたしどもも苦労しました。
EIスペクトルがサリンとヒットしたこと、リテンションインデックスが文献値と一致したこと、最初はポジティブのEI/CIだけをとり、後ではネガティブのCIマススペクトルをとりました。
サリンはリン化合物ですから、リンを検出するということで、NPD(熱イオン化検出器。注1)とAED(原子発光検出器。注2)付きのGCでリンを確認しました。
GCAEDの場合はフッ素も検出できるのですが、このときは条件が悪くてフッ素原子が入っている化合物だということはおよそのデータからいえたのですけど、断定はできませんでした。
あとCHは持っているとか、そういう元素分析によって標品がなくても化合物の同定は可能だと思います。次善の策ですけれども、いろいろな分析手法を組み合わせた結果をもとに、サリンであると鑑定書でも同定しています。
松本のサリンの同定にてこずって、いろいろデータを集めて、間違いないとわたしどもは判断したわけです。その後、東京の地下鉄のばあいは、まったく逡巡することなく、サリンと断定しましたが、それは松本でいろいろやった経験から間違いなくサリンであることがわかりましたので、早めになりました。
東京地下鉄は、実際は科警研では最初分析していません。警視庁で分析したデータを見せていただいて、午前9時半から10時ごろには確認いたしました。
(長野発言)発表はサリンだけですが、公判の検察官冒頭陳述で、n-ヘキサン、N,N-ジエチルアニリンと、それからサリンということが述べられています。
われわれのいろいろな分析結果がそこに集約されている、とお受け取りいただいてよかろうと思います。
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資料3「最近の神経剤分析法」
前書きとして、1992年国連で採択された「化学兵器禁止条約」の国内法の整備をはかっているとき、地下鉄サリン事件が発生し、1995年5月「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律」が成立した。それに先立ち、4月に「サリン等による人身被害の防止に関する法律」も成立した、ことを指摘している。
本文は、化学兵器の種類、神経剤の性状および毒性、神経剤の分解、神経剤の分析法、結語、文献からなっている。
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注目点 (三浦執筆)
最初の二資料の出典は、1996年7月高松市で開かれた第18回日本中毒学会総会である。
科警研からは角田紀子、長野らが出席した。
科警研の人間がみずからの肉声で語っている貴重な資料である。
データを出していないのが難点だ。しかし、それにしてもいくつか重要な指摘がある。
まず、東京地下鉄事件で、原因物質がサリンと確認したのが、1995年3月20日午前9時半から10時ころだった。
このへんのやりとりが面白いので再録してみる。
白川洋一(愛媛大医学部救急医学講座)「角田先生、東京の場合は、実際は何時ごろ確認されたのですか」
角田「実際は、私どもは最初は分析はしていません。警視庁で分析したデータをみせていただいて……」
白川「それが何時ぐらいですか」
角田「いってよいのでしょうか」
白川「これはいってよいのではないですか」
角田「9時半から10時ごろには」
確認が何時なのか、奥歯にものがはさまったような言い方しかできないようだ。しかも人にうながされてはじめて言う。科警研の人間は、なんとかわいそうなのだろう。
あと、興味深い点をランダムに書いていく。
1、 東洋紡から検知紙が4枚1組で、1冊500円で出ている。これで、液体状の試料からマスタード、Gガス(サリン、ソマンなど)、Vガスの検出ができる。
2、 中毒者のサリンの血中濃度は、GC-MSの検出感度の検出レベル以下にあると考えられる。したがって、サリンを実際に血液試料中から検出することは非常に困難であろうと思います。
3、 ただ、サリンの加水分解物は、検出される可能性がまだ残っている、と思います。
4、 臓器は非常に妨害物が多く、現在のところその分析法については、科警研で検討中です。
5、 フッ素はGCAEDという検出器で検出できるが、条件が悪いばあいがある。
6、 松本サリン事件では、サリンの同定に非常にてこずった。
7、 東京地下鉄事件では、検察官冒頭陳述でn-ヘキサン、N,N-ジエチルアニリン、サリンが検出と述べられており、警察の分析結果が集約されている。
8、 わからないのが、長野県衛生公害研究所のデータと若干のくい違いがあることである。
それは、EIとCIスペクトルである。 EIには、科警研のデータにはピーク43があるが、長野県の方にはない。
CIでは、科警研が141、99で、長野県は141.8、99.8となっている点である。 こういうところは専門的なので、もっと勉強する必要がある。
1992年国連で採択された「化学兵器禁止条約」について、通商産業省を中心に国内法の整備をはかっているとき、地下鉄サリン事件が発生した。
その後すぐ、1995年4月に「サリン等による人身被害の防止に関する法律」も成立し、5月には「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律」が成立した。
世界的な化学物質の網かけや、アメリカを中心とするテロ対策の一環としての意味をもつのだろう。
それにしても、どうも流れができすぎのような気がする。政府の被害者に対する冷たさと、どこか通底するものがある。そういえば、アメリカCIAが仕組んだのではないかという噂が、サリン事件直後にあったことはあった。ところが、オウムがやったとわかって、CIA説は立ち消えになってしまった。
注1、 NPD(熱イオン化検出器):リン化合物を選択的、高感度に検出する
注2、 AED(原子発光検出器):原子蒸気を電気放電などの方法で発光させ、原子特有の発光スペクトルを同定する
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