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住民票問題

総務省交渉と杉並区の高圧的態度
          
山際 永三


 住民票問題は、裁判所では次々と「不受理違法」判 決が出されるという流れになってきたものの、敗訴し た自治体はどこも控訴し、最高裁判決まで異常事態を 引き延ばそうとしているかにみえる。



      総務省への要望と話し合い

 そうしたなか、もうそろそろ住民票問題の決着につ いて国レベルの方針、つまり地方自治体に対する国の 指導が出されるべきではないかと、総務省に出向いて 行った。
 私たちは、同じことを昨年の7月26日にもやった。 迎えてくれる相手は、総務省自治行政局市町村課の課長補佐・馬返(まがえし)秀明氏ほか2〜3名。この 問題の担当部署であることは間違いない。前回は「転 入届不受理裁判支援連絡会」として、総務大臣・片山 虎之助氏あての申し入れ書を持参して、私たち4名で 行き、今回の1月25日には、私たち3名と宗教団体・ アレフの法務と広報の担当者2名が一緒に行き、アレ フの村岡達子代表名の請願書なるものを持参した。課 長補佐氏は、受け取った書面は必ず上のほうに伝える と言明し、皆さんのおっしゃることは十分にお聞きし ます、どうぞなんでもおっしゃってください・・とご く丁寧で、やや激しい言葉で国の無責任を責めたてる 私たちに対して怒ることもせず、ともかく「聞きおく だけ」の態度をかたくなにとりつづける。
 要するに、裁判の結果については新聞等でみて承知 している、一つの自治体(杉並区だったか世田谷区だ ったか)の担当者からは、裁判の結果について電話を もらったことがある、たまたま顔見知りの担当者だっ たからで自治体として正式の報告をしてきたわけでは ない、この問題で国として特に通達など出したことは ない、これから出すかどうかも分からない、各自治体 が独自に苦渋の判断でやったことであって、やむを得 ない事態だった・・という意味のことを繰り返し弁明 して、私たちに言質をとられるようなことは、一切口 にしないと言葉を選んでいる様子が窺えた。
 私たちは、不受理を決めた自治体の長にしろ担当者 にしろ苦しんでいるとは思えない、これまで多くの自 治体幹部と面談したが、彼らは決して苦しんでなどい ない、マスコミが振りまく「幻の不安」を、住民・自 治体がキャッチボールしているうちに増幅させただけ のことであって、不安の原因・実態はどこにもない。
これはオウム/アレフ信者に対する差別・いじめ以外 のなにものでもない、不受理にされた信者のほうが健 康保険がない、選挙権がない、免許証の書換えができ ないなど具体的に苦しんでいる・・と口々に責めたて るが、ぬらりくらりとして、どうどうめぐりの話にな ってしまう。


      国の省庁レベルの連絡会議

 それでも今回、課長補佐氏は、国の省庁間でこの問 題に関する連絡会議があって、そこで方針転換が決ま らなければどうにも動けない・・というようなことを 言ったのが、やや問題の在りようを示唆しているのか なと思えた。私たちは、すかさず、その連絡会議はい つ開かれたのかと質したが、課長補佐氏は口をにごし て説明したくない様子をみせた。
 1999年頃に、それこそ警察庁主導で何回かやったこ とはあるのだろうが、最近は開かれてもいないのでは ないか。99年当時その連絡会議では、当然団体規制法 の成立・運用によってオウム/アレフ問題に“厳正な 対処”をして行くことが話し合われたであろうし、各 地で相次ぐ排斥運動、住民票不受理を決める自治体の “苦渋の”違法行為を見て見ぬふりをすることも暗黙 の共同意思として了承されていたに違いない。だから こそ、その暗黙の共同意思がなくならない限り、課長 補佐氏は、この問題について何もしてはいけないのだ という呪縛にみずからの身を置いていることが十分に 分かった。国の省庁レベルの連絡会議の暗黙の意思こ そ、アレフ排斥・差別の元凶であることが、はからず も明らかになったと言うべきである。
 この調子では、住民票問題はまだまだいくつかの山 を越えなければならない・・と私には思えた。



       杉並の東京道場見学

 私たちは、1月末の一日、東京杉並区にあるアレフ 東京道場というのを尋ねた。商店街のはずれ、細い裏 道に面した3階建ての小さなビルである。
 ここは、2000年12月に開設されたそうで、周辺住民 の「杉並区オウム真理教対策協議会」が排斥運動を始 めた頃、出入口前の電信柱の高いところに監視カメラ が設置された。「オウム出て行け!二度と来るな!」 と大書された幟には、「対策協議会」に並んで「杉並 区」とも印刷されている。監視カメラも幟も、区の直 接的な経費負担で設置されていることが窺える。
 監視カメラは、電信柱の上の方に付いていたが、最 近(12月26日)になって下の方(地上から4メートル くらいか)に付け直され、出入りする信者により一層 威圧を与えることになったという。ここには、いわゆ る在家の信者も出入りするわけで、みな気にして厭や がっている。
 住民票問題に象徴されるとおりの差別・排斥の動き が、行政・マスコミ・住民一体となって行なわれてい る現状で、このプライバシー・肖像権侵害は具体的な 被害を伴うもので、問題は大きい。
 監視カメラから出ているコードをたどってみると、 2〜3軒先の或る商店につながっているようだ。当然 そこで録画されているのであろう。
 警察さえやってはいけない違法行為を、民間人や区 役所がやるのは、おおいに問題だ。



       居丈高な区役所職員

 監視カメラが設置された後、道場に居住している信 者が杉並区役所の総務課長に電話したところ、監視カ メラは区で設置したものであることを認め、今のとこ ろ話し合いをするつもりはない、団体で住む必要はな いのではないか、施設を退去してほしい、考え方が全 然違う、教団がこれまでやってきたことがいろいろあ る、区長も承知でやっている、ただし地元の要望を受 けているということになっている・・などを答えたと いう。
 最近、カメラの位置を下げる作業に来た区役所職員 に、居住している信者が尋ねたところ、「もっと見や すくするために工夫している」と述べ、信者が「人権 侵害だ」と言ったところ、職員は、「住民を守る義務 がある」「なぜこんなことをやられているのかを考え なさい!」と命令口調で居丈高な態度をとり、ヤクザ のように顔を近づけて威圧するなどした。
 また、信者と教団法務部の担当者が杉並区役所に行 って、監視カメラ撤去を申し入れた際には、対応した 総務課長らは、カメラが区のものかどうかを答える必 要はないとしたうえで信者らに、「(区は)聞く耳は 持たない」「バカなんだ」「ネズミと一緒だ」など数 々の暴言を吐き、高圧的な態度をとった。
 こうなると、プライバシー・肖像権・信教の自由な ど人権侵害もさることながら、区役所職員としてあま りにも酷い対応であり、公務員職権濫用罪(刑法 193 条)の「公務員がその職権を濫用して、人に義務のな いことを行わせ、又は権利の行使を妨害したとき」に 当たることが明らかと言うべきである。
 教団としては、杉並区を相手にして訴訟に踏み切ら ざるを得ないだろう。当然である。



      杉並区はなぜこれほどに

 住民票のことでも、杉並区役所の職員が「なんで杉 並ばかりに来るんだ」と文句を言ったことがある。杉 並区には、1995年前から何箇所かの施設があったが、 それらは事件後撤退した。だから、幟に「二度と来る な!」となったのであろう。区役所職員は、「区役所 には30人を超えるサリン事件の被害者がいる」とも言 った。例の5000人とかの被害者のうちの30人が杉並区 役所の職員だったのだろうか。そのことを恨みに思っ て、最近新たに居住したり、在家で道場に通う信者た ちを排斥・差別し、暴言を吐くなどというのは、まさ にリンチの発想だ。公務員のやることではない。  道場に通う信者たちは、事件前からの信者もいるだ ろうが、新たに道を求めてアレフに行きついた人もい る。宗教というものが、人間にとって何なのかという 根本問題についてさえ、一顧だにしない人が日本には 多すぎる。
 かく言う私は、杉並区民なので、本当に他人ごとで はすまされない。区民税も納めている。杉並区は、反 原子爆弾市民運動の発祥地などと言われていて民主的 な人が多く住んでいるはずだが、最近は惨憺たるあり さまで、石原慎太郎を小型にしたようなと形容される 区長が、区の教育委員に「新しい歴史教科書をつくる 会」系統の人を任命したりして、その“加虐史観”教 科書を採択しようとするたくらみをやっとのことで阻 止したという状況だ。
 弁護士に相談したら、まず区に対して監査請求をす ることだと教えられた。そこで、区役所の監査委員の 事務局に行って聞いたところ、監査請求はあくまでも 「財務会計上の行為」が対象だから、区の公金がどれ だけ支出されているのかを情報公開制度で調べてから にしてくれと言われた。制度は新しくなっても相変わ らず“たらいまわし”である。
 情報公開は、監査委員事務局の古臭いお役所的対応 よりはずっとましで、比較的簡単な手続きで監視カメ ラに関する区役所総務課の扱った公金の支出について の書類コピーが開示された。これを添付して、私は住 民監査請求手続きを開始した。
 その顛末については、追って報告する。



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