「オウムの人権」「狸の人権」?
川越オウム拒否掲示物住民訴訟原告 永井広海(ながいひろみ)
この訴訟は、「オウム真理教信者の転入届は受理しません」などとした掲示物が市の財産を使用して違法に作成されたにもかかわらず市長が損害賠償請求しないことは違法であること、の確認を求めるものです。市民オンブズパーソンが使うことで有名な地方自治法242条の2に基づく住民訴訟であり、原告のわたしはいわば川越市の利益代表ということになります。
これまでの経過を簡単に説明しますと、昨年10月、川越市は他の自治体同様、転入届不受理などのオウム真理教信者に対する差別方針を決定しました。そして、何のためかわかりませんが、ワープロでA4のコピー用紙に印字した「オウム真理教信者の転入届は受理しません 川越市」などという掲示物を市民課の窓口などに張り出しました。こんな掲示物を作成しなければ何も起こらなかったのですが、何が災いするかわかりません。今年1月20日、たまたま、市役所に住民票を取りに来たわたしがこの掲示物を「発見」し怒髪天で提訴を決意、2月9日に住民監査請求、3月1日同却下、3月9日提訴、5月8日第1回口頭弁論という経過を辿っています(事務局の手塚さんとの出会いは2月22日のメールでした)。訴訟では、掲示の違法性のみならず転入届不受理等の差別措置の違法性も主張していますが、被告の主張はいまだ明らかになっていません。争点が明らかになるのは第2回口頭弁論(7月10日予定)以降になります。
一応お断りしておきますが、川越市がやっていることはまだ「かわいい」方です。業者に発注して「立派な」看板を作っている自治体、庁舎への立入禁止まで決定している自治体もあります。埼玉県では全92市町村のうち90市町村が信者の転入届不受理の方針を決定しています。ですから、これを読んでいるみなさまの自治体もきっと何かやっているでしょう。しかし、自治体内部でどのような議論があってこれらの違法行為が行われたのかは、ほとんど明らかになっていません。
この「支援連絡会」のような裁判支援型の運動は、ともすれば裁判は代理人にお任せ、会費を払ってニュースを読むだけ、たまに傍聴・集会、ということになりがちです。そこでまずは足元から。自分の町が何をやっているのか、情報公開制度などを利用して、確認してみることをおすすめします。でも、事務局は裁判の予定でいっぱいになっており、「これ以上裁判は増やさないようにしようよ」といっていますので、裁判をはじめる場合には事前に連絡をいれた方がいいみたいです(笑)。
ところで、「住民」から迫害を受けているオウム信者の人権を、住民訴訟という形で、しかも、住民一人の住民訴訟として問題提起したことは、考えてみるとなかなかおもしろいものがあります。この訴訟の原告はわたしであり、被告は市長です(形式的には)。しかし、わたしは今回の自治体による信者差別を単に行政の違法行為とは思いません。この違法行為の民主的基盤にまで目を向けなければ本質はとらえられないと考えています。しかし、この訴訟における形式的被告と実質的被告のずれは、問題を単純化してしまいます。「ジェダイの騎士対悪の帝国」レベルに。では、ほんとうに裁かれているのはいったい何(誰)なのでしょうか。
また、ここで「オウム信者の人権」と書きましたが、これは背理です。人権は「人である」というただそれだけの理由でもって、その人に認められる権利ですから。オウム信者だけに認められる(もしくは認められない)人権などあるはずがないわけで、あるのだとすれば、オウム信者は人ではない、ということになってしまいます。「誰々の人権」というとき、そこに言う「誰々」というのは人ではあり得ず、何か言うとすれば、例えばそれは「狸の人権」、つまり、「はたして狸に人権は認められるのであろうか」と言うしかないはずです。では、何が「オウム真理教信者の人権」という表現を可能ならしめているのでしょうか。
また、自治体はオウム信者差別を「超法規的措置」だと説明します。どうやら、法を超えたところに法とは別の規範があって、わたしたちの社会はそれに基づいて動いているようです。そして、人権は「与えられたもの」・「恩恵」でしかなく、何かあれば、超法規的措置によって、ひょいと取り上げられてしまうのです。今回の信者差別を見ているとほんとうに「ひょい」です。わたしたちの社会において人権とは何なのでしょう。「超法規的措置」っていったい何なのでしょうか。
しかし、こういったことを考えはじめるときりがありません。わたし自身は、これからゆっくり考えていこうと思っています。
この「支援連絡会」では、オウム信者の生活権の保障を求め、生活権の侵害に対する民事訴訟を支援、さらに団体規制法に反対し、観察処分取消の民事訴訟を支援するというのが主要活動になるかと思います。ニュース第1号では三和の転入届不受理取消裁判の原告団長竹井さんが挨拶していました。
しかし、川越でも永井が団長一人でがんばっております。川越で破滅的な判決が出ると三和にも影響しかねないということでしょうか(笑)、さいわいにも支援連絡会のみなさま、アレフのみなさまに助けられて順調な滑り出しです。格調高い判決をとって、三和の訴訟を援護できるようがんばりますのでよろしくお願いします。支援連絡会ニュースにときどき報告を載せてもらいますので、そういやこんな裁判もあったっけ、ということで読んで下さいね。ネットでも活動していますのでこちらもよろしく。
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