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「オウム信者」の転入届けについての要請(大田原市)
大田原市長 千保一夫様


 昨年6月28日、大田原市は「オウム信者」の転入届を不受理にするという前代未聞の処分を行った。本来、転入届は住民基本台帳法に基づき、書類の形式的な不備がない限り受理すべきものであり、市の処分が違法行為であることは明らかである。また、市の処分は日本国憲法14条(法の下の平等)に反する行為でもある。市は日本国憲法22条を不受理の理由としているが、これ自体憲法解釈の著しい誤りであるが、行政機関は本来、法の執行機関であり、憲法を解釈を行う機関ではない。転入届の不受理をはじめ、権利を制限する法がないにもかかわらず、行政機関が法を逸脱した処分を下すことは、明らかに行政機関の権限を超えた越権行為である。市は信者の転入届を速やかに受理し、国民健康保険の適用などあたりまえの行政サービスを即時実行すべきである。
 報道によると市は転入届を受理する方向だというが、その条件として、誓約書の提出を要求という。転入届受理といういわば行政の責務ともいえる行為に対して、条件をつけることは、行政の権限を超えた脱法行為であり、差別に他ならない。
 そのことを前提にした上で、条件の項目自体にはさらに大きな問題があることを指摘せざるをえない。

1.市は、14人を1世帯とする、国民健康保険被保険者証を1通とする、としているが、行政が世帯構成等を指定をすることは越権行為である。

2.「社会に不安や動揺を与える」等の項目があるが、行政機関はあくまで法に基づいた執行機関であり、「住民の不安」「動揺」などの、極めてあいまい、かつ主観的な心情は職務遂行の根拠となりえない。仮に住民等に「不安」や「動揺」があった場合でも、客観的な視点から法に基づいた判断を下し、差別の防止のための啓発を行うのが行政本来の業務であり、本末転倒である。

3.撤去後、市や市民と関わりを解消する、とあるが、これは憲法22条に定められた居住、移転の自由の侵害である。また「迷惑をかけない」との表現も先の「不安」等同様、あいまいかつ主観的な基準にすぎず、行政の職務執行上相容れない基準である。

4.弁護士会への救済申立の取り下げ、民事訴訟を提起しない、等のことを求めているが、救済申立は、転入届不受理に端を発しているものであり、まず転入届の不受理という違法状態を市が解消することが先決である。転入届の受理の交換条件として救済申立取り下げを求めるとは、違法状態を市自らが作り出したことに対する責任回避であり、あまりにも卑劣な行為である。また、憲法32条に保障された裁判を受ける権利の侵害である。

5.今、転入を要望している14名以外の転入届は受理しないと、市は改めて表明しているが、これが違法行為であることはいうまでもない。転入届の受理は行政の責務であって、その取り扱いについて特定の団体・個人と誓約をかわす性格の事柄ではない。

 全体として、市の要望は、行政としての権限を超えたものであり、示されている基準自体があいまいかつ主観的なものである。こうした水準で市行政が執行されているとすれば恥ずべきことである。かさねて強調するが、行政機関の業務遂行はあくまで法に基づいて行われるものであり、主観的な心情などを根拠にすべきではない。
 私たちは、こうした市の行為は民主主義の根本を揺るがす、重大な人権侵害であると考える。これまで市が信者たちの具体的な危険性や問題点を何ら指摘せずに、抽象的な基準で行政サービスを拒否してきたことは、明白な差別行為にほかならない。
 私たちは、市がこうした恥ずべき対応を改め、希望している14名全員の転入届を受理することを要望する。




「オウム信者」の就学に関する要請(大田原市教育委員会)
大田原市教育委員会教育長 小沼隆様


 昨年9月3日、小沼隆大田原市教育委員会教育長は、「オウム信者」の学校入学について、「今回のケースは通知に該当しないと考える。住民感情もあり、仮にオウムから(就学の)申し出があっても、認められない」等と下野新聞社のインタビューで発言をしたと報道されている。これは日本国憲法26条(教育を受ける権利)に反することは明らかである。また、仮に「住民感情」が存在したとしても、法に基づき差別防止のための啓発を行い、職務を遂行することが行政機関の役割であり、主観的な感情や心境を業務の根拠にすることは本末転倒である。部落問題や外国人問題等でも、住民の「不安」や「反発」などの主観的な感情が人権保障のための職務執行を遅らせる理由とされてきた。こうした主観的な感情が行政業務の根拠とされるのであれば、行政が自らいわれなき差別を肯定し、助長することになる。私たち、それに強い危機感を抱かざるを得ない。
 最近になって、市教委は信者に入学・転入を認める、というあたりまえの判断を下した。しかし、報道によると就学の交換条件として誓約書の提出を求めていく考えであるという。
 この市教委の行為は、憲法14条(法の下の平等)に反する行為である。
 重ねて強調するが、仮に住民に「不安」が存在したとしても、それを解消するため人権啓発を行うのは行政機関の責務であり、「住民の不安」を根拠に権利を制限することは本末転倒である。この間、大田原市行政によって作り出されてきた違法状態の中を是正していくための実務的な連絡以外には、「オウム信者」らに他の児童・保護者と異なる要求をすることは差別行為である。
 大田原市がオウム信者に対してとってきた行政サービスの拒否は、民主主義の根本を揺るがす行為であり、私たちは強い危機感を抱いてきた。
 教育委員会においては、日本国憲法を遵守し、差別撤廃・人権教育の立場にたった適切な判断と対応を強く要望する。




「オウム信者」の転入届不受理に関する要請(自治省)
自治省
自治大臣 保利耕輔 様


 昨年来、自治体が「オウム信者」の転入届を不受理にする事態が起きている。茨城県、栃木県、群馬県、東京都、埼玉県など関東を中心とする多数の自治体が、まだ転入届が出されていない場合でも、不受理を表明している。転入を拒否された信者たちは、併せて国民健康保険加入や学校への入学など、権利を不当に侵害され、日常生活に支障をきたしている。
 周知のとおり、住民基本台帳法は、転入届の不受理について定めていない。申請書類の形式的な不備を除き、転入届を受け付けることは自治体の義務である。自治体に転入届の受理・不受理を判断する権限はなく、一連の不受理処分が違法行為であることは明らかである。中には受付窓口に「オウム信者」の居住する代表的な住所の一覧を控え、転出元に該当する住所があった場合、「オウム信者」かどうかの確認作業を行っている自治体さえある。
 「オウム信者」ということだけで転入届を不受理にすることは、法の下の平等を保障した日本国憲法に反する行為であり、思想・信条による差別にほかならない。こうした異常な事態に対して、自治省に対して下記の点を要請する。

1.信者の転入届を不受理にした自治体(茨城県三和町、栃木県大田原市、埼玉県八潮市、東京都中野区、同荒川区、同足立区、同武蔵野市、神奈川県横浜市、以上現在も信者が住んでいるにもかかわらず不受理にした自治体。茨城県大子町、栃木県真岡市、群馬県藤岡市、以上現在は信者が居住していないが、転入届を不受理、或いは不受理を表明した自治体)に対して、転入届の不受理を撤回し、受理するよう速やかに行政指導をすること。

2.新聞報道によると、栃木県大田原市は転入届の受理の条件として誓約書の提出を求めている(別紙「オウム信者」の転入届に関する要請、『下野新聞』3月9日記事)。転入届を受理することは自治体の責務である。転入届受理に、こうした恣意的な条件を付与することは明らかは自治体の権限外のことであり、違法である。また、地元住民で組織する「オウム対策協議会」は、信者の子の就学を認める代わりに転入届けを認める人数の制限を別途要望している。民間の任意団体にこうした権限がないことは明らかであるが、報道を見る限り、大田原市はこの住民の理不尽な要望に対して、適切な啓発を行っている様子はない。
  栃木県大田原市に対して早急に実態調査を行い、違法な条件付与を撤回させ、即時、転入届を受理するよう行政指導すること。

3.転入届の不受理を表明している自治体は関東を中心に数十自治体に上ると思われる。この異常事態に対して実態調査を行うとともに、違法行為の表明を直ちに撤回するよう周知徹底させること。

 以上。




「オウム信者」の国民健康保険加入に関する要請(厚生省)
厚生省
厚生大臣 丹羽雄哉 様


 昨年来、自治体が「オウム信者」の転入届を不受理にする事態が起きている。転入届不受理は、茨城県、栃木県、群馬県、東京都、埼玉県など関東を中心とする自治体が、まだ転入届が出されていない場合でも、不受理を表明するにいたっている。
 転入を拒否された信者たちは、併せて国民健康保険加入、学校への入学などの権利を不当に侵害され、日常生活に支障をきたしている。茨城県三和町では、通院の必要から国民健康保険への加入を求たところ、自治体は住民登録がないことを理由に加入を拒否した。国民健康保険法は、保険加入の条件として住所を有することとしている。実態として居住していながら住民登録がされていないことは、自治体が転入届不受理という違法な処分を下したからであり信者たちの責任ではない。
 「オウム信者」ということだけを理由に、国民健康保険加入を認めないことは、日本国憲法14条(法の下の平等)、並びに25条(生存権)の侵害である。信者の中には健康保険がないため身体の不調を訴えながらも受診・通院を見合わせている、歯科治療の際全額自費負担を強いられた等という現状がある。
 こうした異常な事態に対して、厚生省に対して下記の点を要請する。

1.信者の転入届を不受理にし、併せて国民健康保険加入を実施していない自治体(茨城県三和町、栃木県大田原市、埼玉県八潮市、東京都中野区、同荒川区、同足立区、同武蔵野市、神奈川県横浜市、以上現在も信者が住んでいるにもかかわらず不受理にした自治体。茨城県大子町、栃木県真岡市、群馬県藤岡市、以上現在は信者が居住していないが、転入届を不受理、或いは不受理を表明した自治体)に対して、実態として居住している信者らへの国民健康保険の速やかな適用を行うよう行政指導をすること。

2.転入届の不受理と共に、国民健康保険適用拒否を表明している自治体は関東を中心に数十自治体に上ると思われる。この異常事態に対して、実態調査を行うとともにそうした違法行為の表明を直ちに撤回するよう周知徹底させること。

 以上。




「オウム信者」の就学に関する要請(文部省)
文部省
文部大臣 中曽根弘文 様


 埼玉県都幾川村、栃木県大田原市では、自治体が「オウム信者」の子どもたちの就学の拒否を表明していた。しかしその後、都幾川村では、当該子どもたちの保護者によって民事訴訟が提起されるなどして、村も就学通知を送付する方向に姿勢を転じた。大田原市でも、転入届の受理と共に就学を認める方針を打ち出した。
 しかしながら、都幾川村ではPTA総会が開かれ、一切の就学を認めない旨、村に対して要望を出した。大田原市は、就学の条件として信者からの誓約書提出を求めた。また、PTAや地元住民で組織する「オウム対策協議会」は、他の生徒と別の教室で授業を受ける、子の就学を認めるかわりに転入届の人数を制限する、などの要望を提出した(別紙、「オウム信者」の就学に関する要請、『下野新聞』3月9日記事)。
 義務教育の就学は、日本国憲法26条(教育を受ける権利)で定められた権利である。民間の任意団体に、この権利を制限する権限がないことはいうまでもない。
 仮に住民に「不安」があったとしても、法に基づき差別防止のための啓発を行い、職務を執行することが自治体の責務であり、主観的な感情や心情を根拠に権利を制限することは本末転倒といえる。また、大田原市のように就学のために交換条件を出すことは、自治体の越権行為であり、法の下の平等を定めた日本国憲法14条違反である。
 教育権の保障と差別の防止の立場から、文部省に対して以下のことを要請する。

1.埼玉県都幾川村、栃木県大田原市に対して、憲法遵守の立場から、子の就学を認めるよう行政指導されたい。また、これにあたって他の児童・生徒と異なる要求をすることは明らかな差別であることを指摘されたい。

2.PTAや地元の住民に対して、正しい人権啓発を行い、法で保障された権利擁護のための職務を行うよう指導されたい。

3.茨城県、埼玉県、栃木県、東京都、神奈川県など関東を中心に信者の転入届の不受理を表明している自治体は数十自治体を下らない。こうした自治体の中には、信者の子の就学拒否を表明している自治体もあるが、これらは明らかに違憲・違法である。文部省においては、こうした表明をしている自治体の実態調査を早急に行い、違法な意思表示の撤回を指導されたい。

 以上。





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