○中川智正証言
この前、麻原公判が開かれ、そのときに中川智正が証人として出たという。いま見ているのは朝日新聞である。
さいきんオウム裁判はあまりはやらないとみえて、これまでのようにひんぱんに記事にはなることは少なくなっているが、これは目をひいた。
○オウムのサリンは毒性が低かった
前からくりかえしているのは、一般にいわれているサリンと比べて、オウムがつくったサリンは毒性が低く、殺す力にはかなり疑いをいだいていた、というものである。
理由もあげている。
1、つくる現場では、かなりいいかげんな管理をしていたのに、体調が悪くなるぐらいで、治療するところまではいかなかった。
2、創価学会の人たちに追いかけられながら、サリンをまいたが、その人たちはなんともならなかった。
3、重症になったのは、けっしてサリンだけのせいではなく、くすりの量をまちがって多く与えすぎたため。
4、オウムが3回にわたってサリンをつくったが、その量がだんだん増えたのは、その効果が弱かったため。
1と2は、池田をおそった1回目(試作はのぞく)に合成したサリンである。
このとき村井は、ほんとうにできているのか、と疑いをもったという。
3は、池田をおそった2回目に合成したときのものである。
前よりは効き目があったのは確かなようだ。
ただ、このときもたいしたことはなく、被害を受けた新實は1週間でなおってしまった。
サリンの予防薬として使われたくすりは、ほんとうは毒性をつよめるはたらきをもつことが報告されており、中川の言いぶんを裏づけている。
4については、量がだんだん増えていったのはこういうことだったのか、とうなづける気がしないではない。
3回目に合成されたものによって、滝本弁護士がおそわれ、松本でも使われた。
○松本で使われたサリンは純度が高かった
松本でまかれたサリンは、きわめて純度が高かった、と言われている。
そう言うのは、生物化学兵器の専門家であるオルソンだ。
オルソンはなぜ、サリンの純度が高かった、とみたのか。
すべての患者において、コリンエステラーゼ(呼吸をつかさどる肺をうごかしている筋肉があり、これは、脳から神経をとおして命令がくることでうごく。それがスムースにいくためになくてはならない酵素)の数値がかなり下がっていたこと、をあげている。
オルソンが現場をおとずれて得た考えと、中川の言いぶんがまっこうからくい違っている。
中川の言いぶんはほんとうなのだろうか。
○滝本サリン事件に使われたサリンはそれほど純度は高くなかった
松本で使われたサリンと同じものが、滝本事件でも使われているので、こちらのほうをみてみよう。
本人には申しわけないが、ずばり言って、たいした被害は出ていない。
もちろん松本と比べてである。
これは量が少なかったことと、フロントガラスにかけられただけだからかもしれない。
では、まいたほうの女の人はどうだったろうか。
べつの公判のなかで、かけると、白いけむりがたち、つよい刺激のあるにおいがした、という。さらに、目のまえが暗くなり、気分がわるくなった、ともいっている。ただ、それ以上ぐあいが悪くなったとは、いってない。
このように、松本とはたしかに違いがありそうだ。
そうすると、中川の言いぶんはそれなりに通るかな、という感じがする。
オウムでつくられたサリンは、つくられてから松本でまかれたのは、まちがいなさそうである。
(この、つくられてから、というのが大切である)。
でも池田を襲い、滝本をおそったサリンとはちがいがありすぎる。
これをどう説明したらいいのか。
【参考】
・朝日新聞2000年6月24日朝刊37面
・朝日新聞2000年6月29日朝刊31面
・カイル・オルソン「松本サリンは、テロリストの犯行だ。」マルコポーロ1995年2月号 156〜163頁(文藝春秋)
・「麻原第154回公判元信者証言」毎日新聞2000年4月24日朝刊6面
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