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あたりまえのことをあたりまえに
第1号 2000年3月20日
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仕組まれた「オウム追放運動」 もう一度原則にもどって

■「オウム追放」はマスコミ報道ではじまる
 事の発端は、地元紙『下野新聞』の記事だった。あたかも開戦を伝えるかのように、「オウム、大田原に進出」と1面トップに白抜きの大見出しは、信者の引っ越しをいやでも大事件に仕立て上げた。昨年の春以来、各地で繰り広げられている「オウム追放運動」は、いつもマスコミのセンセーショナルな報道で幕を開ける。すでに信者が住んでいた地域でも、マスコミ報道を受け監視活動等の「追放運動」が始められたところもある(茨城県三和町、埼玉県吹上町等)。
 昨年9月、池袋に引っ越そうとした荒木オウム真理教広報副部長(当時)らは、地元住民に阻まれ入居を断念せざるをえなかった。テレビには荒木氏らを実力で阻止しようとする住民が映し出されていた。しかし、実は、住民たちは「監視ルール」を作り、直接抗議文を読み上げる3人以外は、歩道両脇の歩行者用ゾーンから外にでないことを申し合わせていたという。しかし、マスコミが殺到し、そこに酒の入った住民も加わり祭のような状態になってしまったらしい(『潮』4月号)。つまり、荒木氏らを実力で阻んだのはマスコミなのだ。


■マスコミを利用する公安調、自治体
 栃木県大田原市では、信者が転入届を出したその日に『下野新聞』にその情報が流れ、翌日のトップニュースとして報道された。三和町でも、マスコミ報道を受けて住民たちが町の実態調査を阻んでいる。今年1月には、栃木県宇都宮市に2名の信者が転居してきたが、どういうわけか自治会等の知るところとなり、転居を余儀なくされている。
 こうした背景に警察や公安調、自治体によるマスコミへの情報のリークがあったと考えることはごく自然だ。茨城県三和町や埼玉県吹上町では、公安調が自治体に「オウム信者」が居住していることをわざわざ知らせている。
 「追放運動」は住民の自然な感情から始まり、やむにやまれず自治体が超法規的措置をとり、その動きをマスコミが正確に伝えたという構造ではない。むしろ事態は逆の経過をたどっていることが多い。センセーショナルなマスコミ報道に煽られた住民が「追放運動」を起こし、それを理由に自治体が行政サービスを拒否する。公安調や自治体は、「オウム追放」のためマスコミを巧みに利用しているのだ。

■企まれた「不受理」
 これまでの経過を簡単にまとめてみたい。
 まず最初に転入届が不受理になったのは、茨城県三和町だ。三和町には97年4年から信者が居住していたが、住民による「追放運動」が始まったのは、翌年(98年)4月のことであった。
 新たに引っ越してきた信者24名が役場に転入届を出すところから話は始まる。役場はいったん転入届を受理するが、書類の不備のため書き直しを要求。信者らが再び転入届を提出すると、実態調査の必要が言い渡され、転入届は保留扱いになる。このことが新聞報道され、住民が役場に転入届不受理を求める要望を提出。これによって実態調査の日程は延期になる。そして、改めて実態調査が予定された日、住民達が実態調査阻止を目的に施設前に集結。信者はトラブルを避けるため住民のいない裏門からの訪問を役場に要請し、役場も了承する。しかし、役場はあえて住民の集結する正門から訪れ、住民に阻まれ、押し返されていった。実態調査が出来なかったことを理由に、三和町は「違法は承知の上で」転入届不受理の判断を下す。
 次に転入届を不受理にしたのは栃木県大田原市。6月25日、信者の転入届を保留にした市は、信者に実態調査を約束するが、週明けの28日、一方的に転入届不受理を通達した。憲法22条の「公共の福祉に反しない限り」という条文が引っぱり出され、理由としてこじつけられた。三和町は実態調査を試みようとしたり、「違法であることを承知の上で」転入届を不受理にしているが、大田原市はいわば正面から不受理処分を下した(この違いは後日の行政不服審査法に基づく異議申立についても表れていて、三和町は申立に回答しているが、大田原市は「審査も回答もしない」という前代未聞の対応をとった)。市議会も7月6日に破防法改正と特別立法制定を求める決議を採択、議会副議長が県内の市町村議会に採択を促す陳情を提出する(現在確認されているだけで、県内58議会中、35議会で採択。ただし破防法改正が入ったのは大田原市だけ)。県内の市町村はオウム対策本部を設置し、転入届不受理、公共施設の使用禁止等を表明していく(現在確認しているだけで57自治体中、28自治体)。
 そして、こうした大田原市の対応は、栃木、群馬、埼玉、東京、神奈川内の各自治体の信者の転入届拒否表明に道を開いていった(転入届不受理の現状は8〜13頁を参照)。

■人権に例外はない
 もう一度一連の問題を冷静に考え直してみたい。
 自治体は法の執行機関であり、憲法の解釈機関ではないはずだ。そうした意味で大田原市の対応は憲法解釈の誤りを含めて二重に違法である。
 また、「オウム問題」では、よく「住民感情」が様々な処分の根拠とされる。しかし、仮に「オウム信者」に対する「不安」や「恐怖」などの「住民感情」があったとしても、行政がそれを処分の根拠とすることは本末転倒だ。本来、主観的な感情や心情に基づいた「住民感情」があった場合、行政は法で定められた権利保護と差別防止の立場から、住民に対して人権啓発を行わなければならない。「同和」行政や人権教育の立場に立てば、こんなことは常識ではないだろうか。事実、この間「オウム追放運動」の中で、具体的な危険や問題が指摘されたことはなく、ほとんど感情的なレッテル貼りでしかなかった。しかし、この「オウム追放運動」の中で、行政は住民と一緒になり主観的な感情や心情を主張することに終始した。
 マスコミは「地元住民対オウム」「住民感情と法」という対決の構図を報道することによって、自治体の違法行為を背後から支えた。
 多くの人々がこの人権侵害に対して沈黙したことは、何よりも事態の深刻さを物語っている。
 「確かに問題は分かるけれども、オウムじゃ……」という声は決して少なくなかった。「人権に例外はない」といいながらも、人々は易々と例外を作り出してしまったのだ。「きらいだ」という感情と権利を制限してよいということは全く別の次元のことだ。(また、「オウム」に対して、少なくない人が実に様々なコメントをするが、その根拠の大半はマスコミ情報かうわさ話程度の情報ではないか。そうしたあやふやな情報を基に断言することの危険性は数々のえん罪事件や、関東大震災時の朝鮮人虐殺事件の教訓だったはずだ。)
 「オウム問題」によって、本来踏まえなくてはならない原則は次々に取り払われた。事態は深刻だ。しかし、問題は逆に極めて単純なことに改めて気づかされる。民主主義の原則が何か、今一度確認するだけでよいのだ。あたりまえのことをあたりまえに。そんな簡単なことすら私たちは忘れていたのではないだろうか。

(呼びかけ人・手塚愛一郎)


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■転入届不受理取消裁判原告から
“開かずの間”の住人より

原告代表 竹井宏明


 このたび、わたしたちは三和町と町長に対し、転入届不受理処分の取り消ししを求める裁判を起こしたわけですが、このような事態になったことは、正直言って大変残念でなりません。
 三和町の問題に限らず、わたしたちと一般の国民の方々との間にでき上がってしまった「溝」の大きさをつくづく感じています。
 皆さんから、わたしたち出家信者を見た場合、ある種の違和感(あるいは恐怖感?)を感じられるかもしれません。  では、なぜここまで皆さんとの間に、こんなにも大きな溝ができてしまったのでしょうか。――わたしは、これこそ「情報のトリック」だと考えています。
 例えば、ここにある部屋があって、扉が閉まっていたとしましょう。そこで、誰かが周りの人に、「この部屋は開かずの間だよ!」「近寄ると怖いよ!」という噂を大量に流したとします。そうすると、その情報をたくさん聞いた人は、その部屋に対してなんとなく怖い感じを受けるようになりはしないでしょうか。これが「情報のトリック」です。
 このような形で、皆さん方とわたしたちの間に立ちはだかる膨大な情報の壁によって、皆さん方からわたしたちを見れば、違和感や恐怖感を感じ、教団の中にいるわたしたちから見れば、あまりの“誇大宣伝”なるがゆえにあっ気に取られ、対応にあくせくしているといった状態になっているのだと思います。(もちろん、かつて教団の構成員だった人たちの一部が、悪質な事件を起こしてしまったことについては、大変申し訳なく思っていますが……)
 「朝まで生テレビ」で、遠藤弁護士がこのことについて、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」とおっしゃいましたが、わたしたちは情報によって、いつの間にか「幽霊」にされていたようです。
 そんな中、今回の裁判をとおして、人権と報道・連絡会の方々とお付き合いをすることになったわけです。そこで感じたことは、この方たちは、情報のトリックに惑わされることなく、例の“開かずの間”の扉を、普段となんら変わらずに開けてくださったんだなあ、ということです(わたしたちが出家信者であることを、“平然と”かつ“普通に”受け止めてくださるのですから……)。
 それに、わたしたちだけでなく、差別に遭うなど現実に人権を阻害されているケースが他にもたくさんあるんだな、ということも知ることができました。
 いずれにしても、これから裁判を行なっていくわけですが、この機会をとおして、皆さんの中にあるわたしたちに対するイメージを少しでも払拭していけたら、そして、人権の大切さということに多くの人々が気付いてくれたら、わたしとしては大変うれしいと考えています。

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大田原市・厚生省・文部省・自治省へ要請に行きました!



転入届不受理裁判訴状
住民票不受理処分取消等請求事件

 訴訟物の価格 金2203万583円
 貼用印紙額  金10万6600円

請 求 の 趣 旨

1 被告三和町長が原告らに対し、平成11年4月27日になした住民票転入届の不受理処分を取り消す。
2 被告らは、原告Kに対し金103万583円、その余の各原告に対し金100万円、及び右各金員に対する平成11年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を連帯して支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに第2項につき仮執行の宣言を求める。

請 求 の 原 因

1 原告らは宗教団体アレフ(旧オウム真理教)信者であるが、原告らは平成11年4月16日より茨城県猿島郡三和町大字尾崎2736ー3に所在する建物に居住を始め、同月20日、原告竹井が三和町役場を訪れ、被告三和町長(以下、被告町長という)に対し、原告らの住民票転入届を提出した。
 その際、原告竹井は同役場の町民課長である香取らから、「居住面積の割に転入希望者が多いので、実態調査をしない限り転入手続はできない」旨伝えられた。
2 同月22日頃、三和町役場の担当者であるMから、「実態調査を同月26日の午前10時から行いたい」旨の電話連絡があった。
3 同月25日、原告竹井は三和町役場に電話し、電話に出た当直に対し、「明日(26日)の実態調査は受け入れる」旨伝えた。
4 同月26日午前8時30分頃、原告竹井はMに電話し、「地元住民が大量に集結して調査を妨害するとの情報があるので、トラブルを回避するため、転入希望者全員が役場を訪れ住民登録したい」旨伝えたところ、その約10分後に香取から電話があり、「町長の命令なので調査に行く」と言って、あくまで現地で実態調査を行う旨連絡してきた。
5 原告竹井は、地元住民らが多数集結しており、役場の人間が正面から入ろうとすると、住民らに阻止される可能性があったことから、同日午前9時20分頃、Mに電話し、住民のいない裏道を通って裏門から入るよう要請したところ、役場側もこれを了承した。
6 ところが、現地に到着した民生部長外4名は、右要請に反し、わざわざ地元住民らが多数集結している正面道路から入ろうとしたため、当然のことながら住民らに妨害されて前進できなくなり、役場に引き返した。
7 同日午前10時30分頃、原告竹井は役場に何度も電話し、Mに対し「建物の前にいる住民の数が少なくなったので、今からでも調査に来てほしい」と伝えたが、「今は会議中」などと言って応じなかった。
8 同日午前11時過ぎ頃、Mから原告竹井に電話があり、「午後2時には(転入届を受理するかどうかの)結果を伝えられる」と言ってきた。
9 同日正午頃、原告竹井が被告三和町の中村助役と電話で話した際、同助役は「今から会議を開く。あなた達のおかげで町の方もいい迷惑を被っている。今の段階でははっきりとは言えないが、あなた達の意に沿うような方向には行かないだろう。つまり、不受理の方向に向かうということだ。とにかく午後2時には結論が出るので、こちらから連絡する」と述べた。
10 同日2時頃、中村助役は電話で原告竹井に対し、「住民感情が許さないので、転入届は受理しないことに決まった。明日通知する」と連絡してきた。
11 同日4時過ぎ頃、原告竹井は役場を訪れ、転入届不受理は違法であるから、速やかに決定を取り消し、受理するよう求める被告町長宛ての申入書を渡そうとしたが、総務課長に拒否された。
12 同日、被告町長は本件不受理処分について、「拒否することは違法だが、社会的影響や住民の意思の尊重を考慮した」(甲第2号証)とのコメントを発表した。
13 同月28日、被告町長から原告竹井宛に住民票の不受理通知が届いたが(甲第1号証 別紙1審査請求書添付の別紙2参照)、そこには「竹井宏明他23名の転入については地域住民の不安をあおり、地域秩序を著しく乱すものであり、地域の平和と平穏また住民の生命と安全を守るため受理することはできないものである」などと記載されてあった。
  原告竹井は右不受理処分を不服として、同日中に行政不服審査法に基づく異議申立を被告三和町に対して行ったが、同年7月27日、棄却された(甲第1号証 別紙1審査請求書添付の別紙3参照)。
14 同年7月27日、原告竹井は茨城県知事に対し、審査請求の申立を行ったが、同年10月26日、棄却された(甲第1号証)。
15 被告町長は、転入者から転入届の提出があった場合には、住民基本台帳法5条ないし8条の規定に基づき、住民票に住民に関する記載をして住民基本台帳に記録すべき義務があるところ、被告町長は違法と知りながら、この義務を怠っているのであるから、本件不受理処分が違法であることは明らかである。
16 よって、原告らは被告町長に対し、被告町長が平成11年4月27日になした住民票転入届の不受理処分の取消しを求める。
 なお、原告竹井以外の原告については、異議申立及び審査請求の申立を行っていないが、被告町長はオウム真理教信者の住民票を不受理とする見解を表明し、被告三和町は原告竹井の申し立てた異議申立を棄却しているし、茨城県も原告竹井の申し立てた審査請求を同様に棄却しており、異議申立や審査請求の申立を行っても救済の見込みがないので、行政事件訴訟法8条2項3号の「正当な理由」があるというべきである。
17 被告町長が原告らの転入届を受理しないことにより、原告らは、次のような損害を被っている。
  すなわち、国民健康保険証が交付されないため、高額の医療費を支払わなければ病院で治療を受けることができないほか、住民票の写し等の住所を証明するものが取得できないので、自動車運転免許証の更新手続や住所変更手続に支障を来している。また、国民健康保険証や住民票の写し等の身分や住所を証明するものがないので、図書館のカードが作れず本を借りることができなかったり、レンタルビデオショップでビデオを借りることができなかったり、携帯電話を購入できなかったりといった支障が生じている。
 右生活上の支障により、原告らは既に多大な精神的苦痛を受けているほか、これらの生活上の支障がいつまで続くか分からないという将来の不安を抱えている。何より、宗教団体アレフの信者だというだけで、転入届を不受理とされている原告らの精神的苦痛は甚大である。
  原告らの右精神的苦痛や不安に対する慰謝料は各自金100万円を下らない。また、原告勝浦については、虫歯の治療の際、医療費全額(金4万3691円)を支払った結果、金3万583円を余分に負担させられる損害が発生している(甲第3号証)。
18 右損害は、被告町長がその職務を行うにつき、公権力の行使を誤った結果原告に与えた損害であるから、被告三和町は国家賠償法1条により、これを賠償すべき義務がある。
  また、被告町長は、違法であることを知りながら原告に損害を与えたのであるから、民法709条により、これを賠償すべき義務がある。被告三和町と被告町長の責任は不真正連帯債務の関係にある。
19 よって、原告Kは被告らに対し金103万583円、その余の原告は被告らに対し各自金100万円、及び右各金員に対する平成11年4月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。

 平成12年1月25日

原 告 22名 

 水戸地方裁判所 御中





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